ベタは丈夫な熱帯魚ですが、生き物である以上は病気になってしまうこともあります。
とくに小さい水槽で無理な飼育をされてしまうことの多いベタは、病気になって相談されることの多かった熱帯魚の一つです。
熱帯魚の病気は、どの病気なのか、また原因を突き止め、的確な治療と対処が必要です。
今回はベタブリーダーの経験もある元熱帯魚屋さんが、ベタの病気についてやさしく解説します。
ベタは病気になりやすい?
結論から言えば、ベタは私が熱帯魚店員だったころ、「病気になってしまった」と相談件数の多かった熱帯魚です。
しかしベタが弱い魚かと聞かれれば、それは違うと言えます。
ベタは本来非常に丈夫な魚で、私が飼育している個体も、病気にならずに天寿を全うする個体がほとんどです。
ではなぜ病気になることが多いのかといえば、それは飼育方法に問題がある場合が多いからです。
ベタは安価で、飼育用具も少なく安く済むため、初心者の方が飼うことが多く、飼育に不慣れな理由から飼育環境が整えられにくいというのが一つの理由です。
また、ベタの丈夫さゆえに無理な飼育方法が行われ、またそれを推奨された歴史から、何かの拍子に限界を迎え、病気になってしまうことが多いです。
つまり、病気になってしまったということは飼育環境に何かしらの問題がある可能性が高いため、適切に治療を行うと共に、飼育環境も見直してあげるようにしましょう。
尾ぐされ病(口ぐされ病)
尾ぐされ病はヒレが腐ったように溶けてしまう病気で、ベタによく見られる病気です。
カラムナリス菌という細菌が病原体で、カラムナリス菌が感染するとたんぱく質を溶かしてしまうために、ヒレが腐り落ちるように溶けてしまい、場合によってはヒレが全損してしまうこともあります。
ベタに特別多いわけではありませんが、カラムナリス菌が口周辺に感染することで口ぐされ病となります。
尾ぐされ病や口ぐされ病は水かビ病と併発することも多く、その場合は同時に治療する必要があります。
尾ぐされ病はよくある病気ではあるものの、重症化すると致死率が非常に高いので、見つけ次第すぐに対処しましょう。
尾ぐされ病(口ぐされ病)の症状と見分け方
ヒレが欠損しているからと言って確実に尾ぐされ病であるとは限らず、ケガなどでヒレが欠けてしまっていることもあります。
見分け方としては、ヒレの切り口がモヤっとしていること、また、ヒレの骨部分(軟条)が残るのが特徴です。
エラや口周りに感染し口ぐされ病となった場合も、感染部分がモヤッとした上に、重度だと赤くただれたように見えます。
患部を覆うように盛り上がったモヤがある場合は、水かビ病の可能性もあります。
尾ぐされ病(口ぐされ病)の治療方法と治療薬
塩浴 | 薬浴 | 温浴 |
△ | ◎ | △ |
塩浴や温浴といった負担の少ない治療法は、カラムナリス菌自体には効果がなく、温浴に関しては菌を活性化させ、むしろ逆効果とも言えます。
しかしベタ自身の体力低下を防ぐには効果的であるため、薬浴と並行して塩浴や水温を上げる治療を併用する方も多いです。
いずれにせよ投薬するに越したことはなく、尾ぐされ病(口ぐされ病)と確信した場合には、投薬による治療をおすすめします。
治療薬 | 観パラD グリーンFゴールド エルバージュエース アグテン など |
※各薬品については、必ず使用上の注意をよく読み、指定に従って使用してください。
尾ぐされ病(口ぐされ病)の原因と予防
カラムナリス菌はほぼ確実に水槽内に居る常在菌なので、完全に駆除することは不可能です。
発症する原因になるのは、カラムナリス菌が活発に活動できる環境で、かつベタの免疫力が落ちていることです。
十分な水量の水槽で飼育し、定期的な水替えで水質を保ち、水温を適切に管理するなど、ベタ飼育の基本を守ることで発症を抑えられます。
白点病
白点病はその名の通り、魚体に白い点が付く病気です。
病原体は白点虫と呼ばれる寄生虫で、体表にくっつくことで成長し、白点として現れます。
治療の効果は出やすい病気ですが、酷い場合は全身に白点が付き、エラなどにまで寄生が広がると、治療が間に合わず死に至ることもあります。
また痒がるように暴れるため体に傷を作り、体力の低下や他の病気の原因にもなるため、早めに治療を行いましょう。
白点病の症状と見分け方
白点病と同じく点が現れる病気に、コショウ病(ウーディニウム病)があります。
白点病よりは珍しい病気ですが、ベタにも発症する病気です。
見分け方は点のサイズ(大きいのが白点病、細かいのがコショウ病)と、点の色(白いのが白点病、黒点や灰色っぽく見えるのはコショウ病)です。
基本的に治療法は同じなので、無理に見分ける必要はないでしょう。
白点病の治療方法と治療薬
塩浴 | 薬浴 | 温浴 |
◎ | ◎ | 〇 |
白点虫は比較的弱い病原体なので、塩浴、薬浴、温浴も比較的効果的です。
症状の度合いに合わせて負担の少ない治療をおすすめしますが、全身に広がっているときは急を要するため、投薬で治療するといいでしょう。
温浴に関しては、水温30度以上では白点虫が繁殖できないため効果がありますが、30度をあまりに上回るとベタ自身にも負担が大きいですし、細かな温度管理も難しいので、通常の水温管理をしたうえで、塩浴や薬浴による治療が望ましいでしょう。
治療薬 | メチレンブルー グリーンFクリアー ニューグリーンF グリーンFリキッド アグテン ヒコサンZ など |
※各薬品については、必ず使用上の注意をよく読み、指定に従って使用してください。
白点病の原因と予防
白点虫は基本的に水槽内に常在していますが、外部から持ち込まれたタイミングで発症することも多いです。
ベタ水槽では稀ですが、タンクメイトを増やしたり、水草を導入する場合には、お店の水を持ち込まず、水草は軽く洗ってから入れるなどでリスクを軽減できます。
また、ベタの免疫が下がる水温の変化に起因して発症することも多いので、季節の変わり目などは水温管理に注意してあげるようにしましょう。
水カビ病
主に体表に症状が現れる病気で、真菌類によって繊維状のモヤモヤが付く病気です。
魚体に傷が付いたり、うろこが剥がれたりすることが原因になることが多く、別な病気でできた傷から発症することもあります。
水かビ病を発症すると、菌糸が体力を低下させ、エラなどの働きを阻害することで死に至ることもあります。
治療にはコツがありますが、早期発見すれば比較的治りやすい病気なので、日々の観察で早期発見を心がけましょう。
水カビ病の症状と見分け方
水カビ病は主に体の表面に症状が出ることが多く、稀にヒレなどに発症することもあります。
同じく魚体に傷ができる病気に穴あき病がありますが、繊維状のモヤが出るのが水カビ病です。
ただし、水カビ病の症状が出ていても、穴あき病によってできた傷に水カビ病が発症している可能性もあるので、両方に効く治療を行うようにしましょう。
同様に、尾ぐされ病や口ぐされ病を原因として水カビ病を発症している場合もあります。
水カビ病の治療方法と治療薬
塩浴 | 薬浴 | 温浴 |
〇 | ◎ | △ |
水カビ病のは、患部が小さい場合はピンセットでカビを剥がし、薬欲と塩浴による治療が最も効果的です。
ただしカビを剥がす作業自体がベタの負担になりかねないことや、患部が大きいと剥がした後の負担も大きくなるため、不慣れな場合は薬欲を中心に治療を行いましょう。
塩浴は病原体に直接作用するというよりは、患部から体液の流出などを抑える目的なので、0.3%程度で十分です。
温浴については治療効果は望めないため、ベタの体力を落とさないために、通常の温度管理を行う程度でいいでしょう。
治療薬 | メチレンブルー ニューグリーンF グリーンFリキッド アグテン など |
※各薬品については、必ず使用上の注意をよく読み、指定に従って使用してください。
水カビ病の原因と予防
水カビ病の原因のほとんどは魚体に傷ができることです。
とくに買って持ち帰ったときには、免疫力が落ち、傷もつきやすいため、飼育を始めてすぐのころには、水温管理や水質の調整に注意してあげましょう。
また、尾ぐされ病や穴あき病などが原因になることもあるので、ベタの健康を損なわないよう、日々の管理をしっかり行うことも重要です。
松かさ病・穴あき病(運動性エロモナス症)
ウロコが松ぼっくりのように開いてしまう松かさ病、魚体に大きなえぐれた傷のできる病気があります。
どちらもエロモナス ハイドロフィラという細菌によって起こる病気で、総称して「運動性エロモナス症」と呼ばれることもあります。
お腹に水が溜まる腹水症や、目が飛び出るポップアイなども、この病気によって引き起こされることもあります。
運動性エロモナス症の恐ろしい点は、たいてい症状に気付いた時にはかなり進行しており、治療がやや難しい点です。
早期発見や、若い個体ではある程度進行しても完治しやすいので、早急に治療してあげましょう。
運動性エロモナス症の症状と見分け方
ウロコが開く松かさ病はわかりやすいですが、穴あき病は口ぐされ病の初期症状と見分けにくいことがあります。
穴あき病の場合は、全身、または周囲に赤斑が出ることがあるので、見分けるポイントになります。
穴あき病と運動性エロモナス症の治療薬は共通するので、見分けられない場合は投薬で治療を行いましょう。
ポップアイの原因はエロモナス ハイドロフィラとは限らず、松かさ病や穴あき病が発症していない場合は見分ける方法もありませんが、病原性である場合には、同様の治療で効果が出る場合もあります。
運動性エロモナス症の治療方法と治療薬
塩浴 | 薬浴 | 温浴 |
△ | ◎ | △ |
運動性エロモナス症では、塩浴や温浴による完治はほぼ見込めないため、いかに早く効果的な投薬治療を開始できるかにかかっています。
ただし塩浴は並行して行うべきで、傷から体液の流出などを抑える働きがあります。
温浴についても、温浴のみでは治療できませんが、体力を落とさないために水温の管理は重要になります。
治療薬 | 観パラD グリーンFゴールド顆粒 エルバージュエース |
※各薬品については、必ず使用上の注意をよく読み、指定に従って使用してください。
運動性エロモナス症の原因と予防
エロモナス ハイドロフィラは水槽内に常在する細菌で、通常は魚自身の免疫力で発症を抑えています。
発症する原因は水槽内の環境悪化や、水温変化による免疫力の低下などで、餌の質が悪かったり、劣化した餌を与え続けることも原因になる得ると言われています。
また、エロモナス ハイドロフィラは25~30度で活性化するため、初夏の水温の変化の大きい時期にも注意が必要です。
定期的な水替えで水質を保ち、水温の変化を抑え、餌の質にも注意して飼育することで予防が可能です。
ポップアイ
目が出目金のように飛び出てしまう病気で、原因は様々です。
多くは病原菌による感染症の症状で、加齢によって眼球が盛り上がるように見えることもあります。
原因にもよるもののポップアイだからといって死んでしまうことは稀ですが、放置してしまうと眼球が落ちてしまうこともあり、早目の対処が必要です。
ポップアイの症状と見分け方
ポップアイは眼球回りが盛り上がり、次第に眼球が飛び出てきます。
原因は主に感染症で、特に松かさ病や穴あき病などの運動性エロモナス症の症状が出ている場合や、治療後にポップアイの症状が出た場合は、エロモナス ハイドロフィラの影響である可能性が高いです。
それ以外の雑菌が原因になることもあり、特に片目だけ濁っているような場合は傷から雑菌が感染した可能性もあります。
ポップアイの治療方法と治療薬
塩浴 | 薬浴 | 温浴 |
? | ? | 〇 |
病原体によっては塩浴や温浴による効果がありますが、何によって症状が引き起こされているかわからない場合が多いため、治療効果があるかは何とも言えません。
ただし、体力を落とさないために塩浴や、水温を高めに保つ温浴を合わせて行うのは効果がある可能性もあります。
ポップアイの原因は病原菌である可能性が高いため、細菌感染症に効く薬で、数日間の薬浴をするのもおすすめですが、明確に病原体がわからない場合は、念のため魚へのダメージが少ない薬がいいでしょう。
運動性エロモナス症が疑われる場合には、運動性エロモナス症に効果のある薬を投入します。
治療薬 | グリーンFゴールド顆粒 観パラD など |
※各薬品については、必ず使用上の注意をよく読み、指定に従って使用してください。
ポップアイの原因と予防
ポップアイはベタの免疫力が落ちたことによる細菌感染や、眼球や目の周辺の傷から雑菌が入ることが原因と言われています。
まずは水を清潔に保つことで雑菌の繁殖を抑え、免疫力が落ちないよう水温の管理も重要です。
便秘
細菌や寄生虫に起因するものではありませんが、便秘もベタに多い病気です。
ベタは消化器官が弱く、環境が合わなかったり、餌との相性が悪いと便秘を引き起こしやすい傾向にあります。
便秘と聞くとそう重病じゃないように思えますが、ベタにおいては死活問題で、死んでしまうことも珍しくありません。
治療も難しいので、予防を重視したい病気です。
便秘の症状と見分け方
ベタは便秘になるとお腹が明らかに膨らんでいきます。
同じくお腹が膨らむ病気に腹水症がありますが、腹水症はエロモナス症など感染症の可能性もあり、治療法のアプローチが違うので見分けるのも重要になります。
便秘の場合はフンが出ないので、水槽内にフンがない場合は便秘の可能性が高くなります。
腹水症の場合はフンが出てもゼリー状や、溶けて散ってしまうような場合もあり、そちらも注意が必要です。
便秘の治療方法と治療薬
塩浴 | 薬浴 | 温浴 |
〇 | △ | 〇 |
便秘は細菌や寄生虫が原因になることは稀で、病原体の特定も難しいため薬浴での治療は望めないでしょう。
まず必要なのは絶食で、それ以上のフンが詰まるのを防止します。
その後、塩浴で体調を整えるのをサポートし、水温を30度弱のやや高めに保ち代謝を上げて様子を見るのが、ベタに負担の少ない治療法になります。
また、オスであればフレアリングをこまめに行うのも有効です。
よくココアを餌に混ぜてあたえる治療法が紹介されていますが、実際筆者もそれで成功したことはあるものの、水質悪化のリスクが非常に高いため環境を整えるのも難しく、最終手段と考えていいでしょう。
便秘の原因と予防法
便秘の原因は、経験上餌に起因することが多いです。
乾燥イトミミズや乾燥赤虫などはベタの好物でもありますが、非常に消化しにくく、便秘のきっかけになることもあります。
人工餌は消化しやすいので、基本は人工餌を与え、おやつとして乾燥イトミミズや乾燥赤虫を与えるようにしましょう。
また、水温の低下や加齢により代謝が落ちている場合にも発症しやすくなるので、環境を整え、高齢のベタは特に注意してあげるようにしましょう。
最後に
ベタは本来丈夫な魚で、しっかり飼育すれば病気知らずな魚です。
まずは環境を整えて病気を予防し、万が一病気になってしまった場合は、適切な治療で完治を目指しましょう。
今回紹介した病気は一部で、他にも様々な病気があり、治療法も多岐にわたるので、しっかり治療できるよう、購入店などで専門家の意見も聞き、確実な治療を行ってくださいね。