ヒキガエルをはじめとした北海道の外来種問題について

ヒキガエルをはじめとした北海道の外来種問題について

私の出身地でもある北海道。

全国的に何かと問題になる外来種ですが、北海道においていま直面しているのは日本国内からの流入種です。

生き物と北海道の自然を愛するものの一人として、今直面している北海道の外来種問題についてお話しようと思います。

そして、今回はGWということもあり、実際に問題になっている地域に出向いて調査してきました。

あくまで個人的な意見ですが、最後に見解を述べているのでまったりお読みいただければ幸いです。

 

 

国内外来種とは?

外来種といえば、魚類で代表的なのはブラックバスですよね。

これはもともと北米原産で、約100年前に食用として持ち込まれ、ゲームフィッシュとして人気を得て本州全域にまで広まった魚です。

本来日本にいない強い魚で、日本固有の魚を食べてしまい、生息地を侵害し生態系を破壊するということまでは皆さんご存知かと思います。

では、日本国内にいる固有の生き物なのに、外来種になるとはどういうことなのでしょうか。

 

国内外に関わらず、生態系を壊す恐れのある生き物を「外来種」と呼ぶ

生態系は、自然的に封鎖された環境において、元々生息している動植物で成り立っています。

仮に「A」「B」「C」「D」という生物がいて、AはBを食べる、BはCを食べる、CはDを食べるとします。

ここに「X」という生き物が突然登場し、Bと近い食性を持つと仮定します。

するとXは、Bと餌になるCを取り合う形になり、Bは餌を十分に確保できず数を減らします。

さらにCは捕食者が増えることによって、数が激減します。

また、もしAがXを餌として認識しなければ、Xの数が増え、さらにCの数を減らし、Bの減少と合わさってAまでも数を減らします。

Dは捕食者が減ることによって、本来の安定した生息数より増えてしまう可能性もあります。

 

外来種による問題は、外来種が起こした生態系のバランスの崩れによって外来種自身が数を減らし、結局外来種が居ることによって新たなバランスを構築する場合もあり、大きな問題にならないこともあります。

しかし、本来の生態系を崩していることにはほかならず、極力避けるべき事であることには変わりありません。

 

日本各地に固有の生態系がある

生態系は日本各地で固有にあるもので、本来の生息地以外から持ち込まれればその地域の生態系を破壊してしまう可能性があるのです。

国境を渡るわたらないに限らず、こういった生態系を破壊する恐れがある生物が問題視され、外来種と呼ばれるわけです。

国内から流入したもの、していないものを分ける為に、「国内外来種」、「国外外来種」と分けて呼ばれることも多くなりました。

 

 

近年北海道で国内外来種が問題になっている

北海道は国内でも得意な環境を持つ巨大な島なので、本州とは違う生態系が多く見られます。

とくに四季の温度変化が激しいため、これまで国内外来種に脅かされることも少なかった歴史があります。

北海道にはゴキブリがいないという話も有名ですよね。

国外外来種に関しても、ブラックバスを根絶したなど、環境的な防御が強く大きな問題にはなりませんでした。

ウチダザリガニにしても、大きな実害がない程度には押さえ込めています。というか、もはや観光資源にされてますね。

 

北海道で特に問題になりつつある外来種

しかし、気候の変化や環境の変化が原因なのか、国内外の外来種の流入・定着が増えています。

それは、阿寒湖に定着したウチダザリガニなど、本来の生息域と環境が似ている生物にとどまりません。

たとえば浄水場からのろ過排水の影響で雪の中でも比較的温暖な水が流れる河では、温暖な気候を好むはずのアメリカザリガニグッピーの定着も確認されています。

哺乳類であれば、アライグマが爆発的に増えて大きな問題になりつつあります。

昆虫ではカブトムシが定着し、じつは国内外来種だったということも話題になりました。

もはや、ここまでくると北海道も自然による外来種への防御力では太刀打ちできないといっても過言ではありません。

 

 

昨今大きな問題になりつつあるアズマヒキガエル

ここ数年、北海道に流入した外来種として大きな注目を集めているのがアズマヒキガエル(ガマガエル)です。

となりのトトロにも登場するので、実際に見たことはなくてもなじみの生き物ですよね。

私も好きな生き物ですが、近年北海道ではアズマヒキガエルが大きな問題になりつつあります。

 

アズマヒキガエルとは

アズマヒキガエルは本来東北から近畿までに生息する、日本固有の両生類です。

体長16cm程度の大型のカエルで、昆虫はもちろん小型哺乳類も餌とします。

ニホンヒキガエルと呼ばれる種類も居ますが、体格や生息域が違い、学名でも分けられる別種とされています。

強い毒性があり、たびたび犬などのペットが毒にやられる被害があります。

 

実は北海道には古くから定着していた

大きな問題になり始めたのは私が知る限り2010年ごろからですが、実はアズマヒキガエルは古くから北海道に流入していました。

事の発端は道南函館で、1910年代には生息していた記録があります。

元々北海道固有のヒキガエルと考えられていましたが、その後研究によって道外から流入した種類だと判明しました。

いまでも固有種と考えられていたときの名残が残っており、函館にはエゾヒキガエル保護を呼びかける看板が残っていることもあります。

 

 

実際どれほど定着しているのか

さて、外来種問題でよくあるのが、事実よりも問題点が先立った報道です。

外来種には「帰化生物」という考え方があります。

これは外から来た生き物の中で、国内に定着してしまった生き物のことを指します。

近年、刺されると激しい痛みを伴う「ヒアリ」が問題になったのは記憶に新しいですよね。

ヒアリは国内に定着しておらず、まだ帰化生物にはなっていないということになります。

 

ではアズマヒキガエルが定着している、つまり帰化生物になっているかというと、これは間違いなくそうなっています。

長らくエゾヒキガエルとして保護するべきと考えられていたほどですから、疑う余地はありません。

では、実際に問題になるほど生息域を広げているのか。

これは百聞は一見にしかずということで、GW休みを利用して帰省し、アズマヒキガエル問題の最前線で調査してきました。

 

石狩市親船へ

というわけで向かったのが石狩市の親船です。

この親船で、おびただしい数のアズマヒキガエルが目撃されているというのです。

実はこのエリアはなじみの場所で、砂浜からの投げ釣りや、番屋の湯に何度か足を運んでいました。

最後に行ったのは2015年ごろですが、そんなにアズマヒキガエルがいたという記憶はありません。

 

これはたしかにおびただしい

出発したのは午後11時ごろ。札幌中心部から1時間足らずで到着です。

問題になっているエリアは、先ほど紹介した番屋の湯から程近い名無し沼と呼ばれる湿地帯です。

沼地に近づくや否や、いました。大量のアズマヒキガエル。

30分ほど狭い範囲の調査でしたが、200匹に届きそうな数のアズマヒキガエルが、細いコンクリート舗装の道路にうずくまっているのを見つけました。

気温10℃程度と寒かったので、沼地を目指す間に活動が鈍ったのでしょう。

一部は車に轢かれた固体も見られました。私は慎重にクリープで進んだので轢いていないはず・・・。

情報によればこのエリアの繁殖時期はちょうどこの時期で、メスにオスがおぶさる繁殖行動、いわゆるカエル相撲をしている固体も見られます。

 

駆除の形跡なし

このエリアでは、報道によると駆除活動が行われているはずでした。

昨年はネットで沼を多い囲み、繁殖地への侵入を防いで産卵をさせず、孵化し上陸した固体の拡散を防いでいたはずです。

しかし、今回はその方法による駆除は行われていませんでした。

どういった理由で今年は行われなかったのかは不明ですが、調査している最中にもアズマヒキガエルが名無し沼に入っていきました。

 

石狩市にもアズマヒキガエルは定着している

今回の調査では、一目でアズマヒキガエルが石狩市親船に定着していることがわかりました。

深川や旭川で問題になっていることから、石狩川を下ってついに遠く石狩にまで定着したということなのでしょう。

駆除活動も何らかの理由で中断しているようで、来年以降どうなるのか不明です。

 

 

そもそもアズマヒキガエルが北海道に定着すると何が問題なのか

では、なぜアズマヒキガエルが問題になっているのでしょうか。

先述したとおり、アズマヒキガエルには毒があります。

人間に対してはもちろん、散歩などをする犬には注意が必要です。

ニュース番組でも猛毒があり我々人間に危険な生き物という報道がされますが、私はそれ自体は根本的な問題だとは思っていません。

 

人間に有害なら本州の生息地でも問題になっているはず

アズマヒキガエルの毒は神経毒で、人間にももちろん害があります。

まれに散歩中の犬がアズマヒキガエルにちょっかいをかけて、毒にやられてしまったという事故もあります。

しかし、それがそこまで大々的な問題になっているでしょうか。

中国ではヒキガエルを食べたことによって死亡したという例が何件かあります。一般的な食材であるウシガエルと間違えることがあるんですね。

しかし日本で人間がヒキガエルを食べることは、バズりたいYoutuberぐらいでしか考えられません。

また、犬がゴクンと飲み込んでしまうということも考えにくいです。

ヒキガエル側も食べられた後に相手を殺しても意味がないわけで、本来この毒は「食べられそうになったときの自衛」に使う武器です。

つまり、口にくわえて口や鼻に付着して異常が出たとしても、相当なことがなければ死んでしまう確率は少ないのです。

もちろん大量に摂取すれば命も危険ですし、少量でも眼など粘膜に直接付くと危険なのですぐに毒が付いた場所を水で洗い流し動物病院へ。

しかしながら、そういった実例が少ない以上、昨今の「猛毒があり人間にも悪さをする恐ろしい生き物」と煽るような道内の報道は、未知の生物への無知から生まれた偏見報道で、本当の問題ではないと考えられないでしょうか。

 

アズマヒキガエルは間接的に北海道固有種を減らす

私が調べて一番の問題だと感じたのは、北海道固有種の数を減らす可能性があるという点です。

アズマヒキガエルは動きが遅く、見た目の割りに一度食べれば数日食べない小食です。

また、北海道の気候では活発に活動できる時期が限られていて、食べる量も相対的に少なくなります。

これは石狩とカムイコタンの固体が漏れなく小さかったこと(10cm前後)、逆に、飼育されている個体は大きくなること(15cm以上)からも信憑性が高くなりました。

ではなぜ北海道固有種の数を減らすのか。

それは先述した毒のせいです。

 

北海道には、エゾアカガエルや、エゾサンショウウオといった固有の両生類が居て、アズマヒキガエルの生息エリアとかぶる可能性があります。

同じ両生類なので、すべて水辺で幼生として成長し、陸に上がります。

いわゆるオタマジャクシの時期になるわけですが、この3種類は肉食性、もしくは雑食性です。

オタマジャクシを飼育したことがある方はご存知のとおり、過密になると共食いが起こります。

ここで問題になるのが、アズマヒキガエルの毒。

アズマヒキガエルの毒はオタマジャクシの体内に保有していて、アズマヒキガエルのオタマジャクシを食べたエゾアカガエルのオタマジャクシや、エゾサンショウウオの幼生が死んでしまうというのです。

北海道大学の実験では、エゾアカガエルは特に毒への耐性が低いという結果が出たようです。

さらに不都合なことに、アズマヒキガエルのオタマジャクシは小さく、アズマヒキガエルのオタマジャクシが生まれるのに先立って孵化して成長するエゾアカガエルのオタマジャクシにとっては格好の餌です。

仮に実験と同じ程度の死亡率が自然下でも起こりえて、アズマヒキガエルの生息域が拡大すれば、上記した2種の減少は避けられないでしょう。

 

北海道大学プレスリリース

https://www.hokudai.ac.jp/news/181106_pr.pdf

 

 

有効な駆除方法は

深川市のHPでは、卵やオタマジャクシを池などから回収し、干してしまうのが一番有効だと伝えられています。

https://www.city.fukagawa.lg.jp/cms/section/kankyo/uo2pli000000wzpj.html

しかし、個人的にはこれは有効ではない上にリスクもあると考えます。

というのも、先述したとおりオタマジャクシにも毒があり、卵にも毒があって中国では卵を食べた人の死亡例もあります。

これらを屋外に放置するということは、ほかの生き物を危険にさらすということになります。

また、先述したとおりエゾアカガエルなどの生息地と重なる可能性もあります。

種類が判別できなければ連絡するようにと書かれていますが、持ち込まれた無数のオタマジャクシから、エゾアカガエルやアマガエルのオタマジャクシとアズマヒキガエルのオタマジャクシを選別するつもりなのでしょうか。

できないのであれば、外来種を駆除し、在来種を保護するための活動で在来種を減らすことになります。

 

減らすのではなく「増やさない努力」を

現在、有志の人海戦術による成体の捕獲と、冷凍による殺処分もすすめられていると聞きます。

しかし、実際これは焼け石に水で、増え続けている生き物に対して有効とはいえません。

私は、一度増えてしまい人間に直接害がないのであれば、少し長い目で「増やさない方向」に持って行ってはどうかと思います。

カエルだって生き物です。寿命があるので、増えなければ寿命が尽きたり、自然淘汰で減っていきます。

名無し沼や深川で行われていたネットによる対策はとても有効なのではと思います。

アズマヒキガエルの繁殖期は限られています。

水辺に近付けず、産卵させないようにすればその地域で増えることはありません。

産卵する個体は10cm程度なので、網目の大きさを考えればエゾアカガエルやアマガエルなどの在来種は水辺に近づけます。

アズマヒキガエルの寿命はおおよそ10年、北海道では厳冬期の冬眠による死亡も多いと考えられるので、もっと速いペースで数は減少していくでしょう。

人相手ではないですが、直接生まれた命を奪うわけではないので人道的ともいえるのではないでしょうか。

北海道内のヒキガエルの生息地は、あくまで人の住むエリアでは点在しています。(カムイコタン、深川、北ノ沢、親船など)

繁殖している水辺を特定できれば、減らすことは難しくないでしょう。

ただし、これには繁殖地の確実な特定と、在来種へ影響の少ない方法の確立、構造的な問題の解決やコストカットなど長い年月と人手を要し、行政の介入は不可欠な方法です。

こうしている間にもエゾアカガエルのオタマジャクシが減少しているかもしれませんし、今後のアズマヒキガエルの生息地拡大によってリスクが高まる可能性も大いにあります。

本気で根絶するならば、ぜひ道が主導して、早急に研究と対処方法の確立を進めてもらえればと思います。

 

まとめ

こういった外来種問題で漏れなくいわれるのが「生き物に罪はない」ということ。

これはまったくのその通りで、連れてこられて生活していたら悪者扱いされて殺されたというのが彼らの立場です。

どうにもニンゲンという種族は善悪をつけて悪を目の敵にしたい習性があるようで、ついには悪意を持っていない生き物にまで罪を着せて悪者にして命を持って償わせています。

今回のアズマヒキガエルの件も同様で、一部報道では嬉々としてアズマヒキガエルを捕獲する姿すら見られました。自分に害があるからといって生き物をぞんざいに扱っていいとは私は思いません。

ただ、生態系に悪影響で、ときには農作物を荒らしたり人に危害を加える生き物も居ますし、必要な駆除活動をすること自体をどうこういうつもりはありませんし、やるべきだと考えています。

しかし本当に悪いのはニンゲンという身勝手でおろかな種族で、その割を食っているのが在来種、外来種限らず生き物たちだということは忘れずにいたいですね。

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